5つの制度の活用事例や新制度の特集コラムを掲載しております。
第1回目は、子育てをしながらご両親の介護と仕事の両立を経験した中で感じた仕事への思いと、介護への向き合い方を解説します。
鬼沢 裕子 株式会社ベネッセシニアサポート Work&Careコンサルタント
大学卒業後、株式会社福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。通信教育事業に従事したのち、1997年、当時新規事業として開始した高齢者介護事業に、自ら手を挙げて異動。「ベネッセ介護センター多摩」所長として、介護保険制度の導入準備期に合わせて、介護事業の立ち上げに携わる。
その後、人財部に異動。3人の子育て、両親の介護と仕事の両立という自らの経験も背景にしながら、主にワークライフバランス施策の設計と運用を担当。主としてワークライフバランスやジェンダーダイバーシティに関する講演、セミナーの講師を担当。2016年度、多摩市健幸まちづくり推進協議会委員を務める。
キャリアコンサルタント、経営学修士(MBA)、女性労働協会認定講師、ホームヘルパー2級、介護予防指導員、認知症予防支援相談士、障害者職業生活相談員
母が認知症と診断されてから7年になりますが、母の介護をしながら、このままでは仕事のクオリティを維持できないかもしれないと自信をなくすことや、仕事を続けていくのはもう無理なんじゃないかと不安に思うことが何度もありました。そんな中でも一貫して揺るがなかったのは、「仕事をしている自分は大切にしていたい」という思いです。仕事の責任を果たすということは、私が自分らしく生きていくために外せない、とても大切な要素だからです。
人はそれぞれ自分の中に、子どもとして、親として、職業人として、など様々な役割をもっていますが、親の介護が始まると子どもの役割が急激に膨らむことになります。
でも自分のキャパシティーは決まっているので、各役割の優先順位をつけてバランスをとっていくしかありません。大切なのは、子どもの役割が膨らんで、そのほかの役割が溢れてしまった分は周りに助けを求めてもいいということ。「介護は一人で抱え込んではいけない」というのは鉄則ですが、家庭や職場においてもそれは同じことです。母である自分、妻である自分、職業人である自分の役割の部分でも周囲に協力してもらうことで、介護をしながらでも仕事は続けられます。
介護に直面すると日々の生活が急激に変わり、誰しもが戸惑いますが、そうした状況でも私がなんとかやってこられたのは、「認知症の介護はプロに任せたほうがいい」という知識があったことと、「介護に正解はない」ことを理屈で分かっていたからです。
今、母は施設で暮らしていますが、家での生活から入院、転院など環境が変わり、そうした影響もあって母の認知症が進んでしまい、めくるめく状況の変化に疑問や不安、不満は尽きませんでした。もっとこうしてあげたいという思いもありました。
一つひとつは小さなことでも、ため込まずに、専門職に相談して解決できることは解決したり、同僚や家族に愚痴をこぼしたりしながら、「これでいいんだよね」と自分自身を諭すことができたことで、介護をのりきってきたように思います。
介護では、介護する側、される側の状況によって、その都度家族は選択を迫られることになります。在宅サービスを利用するにしても、施設入居を検討するにしても。
そして、思い通りの選択肢を選ぶためにはお金が必要だというのが現実です。
私の場合は、幸いにも父が遺してくれた遺族年金と貯金のおかげで金銭的な不安がなかったため、私たち家族が望んだ選択肢を選ぶことができましたが、もしそのお金がなかったら、今の施設への入居は難しかったかもしれません。母を心配しながら亡くなった父の思いや、母の希望に沿うことができなかったと、自分を責めていたと思います。
最期にお金を遺していってくれた父に本当に感謝しています。
この7年を通じて、自分らしく仕事をするには、自分らしく生きるためには何が必要かを考えてきました。 なぜこんな辛い思いをしてまで仕事を続けているのだろうと思ったこともあります。でもその中で再確認したのは、仕事をしている自分を大切にしていたいという強い思いでした。自分の人生の中で仕事がどのくらい大切なのかを改めて問い直すきっかけでもありました。
介護は、自分にとっての仕事とは何か、自分自身の人生をより自分らしく歩むために考える機会でもあると思います。