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第2回目は、介護未経験者へ向けて「介護で仕事を辞めないために知っておきたい介護の全体像」を解説します。
株式会社ベネッセシニアサポート 編集者 冨岡 里花
世界でも類を見ない超高齢社会を迎えた日本。2025年には、75歳以上の後期高齢者人口は4人に1人になるとみられています。また、親の介護は家庭の主婦が担うものと考えられていた時代もありましたが、兄弟・姉妹の減少、非婚化、晩婚化や晩産化、共働きの増加などを背景に、介護を他の家族に頼ることができず働きながら介護をする、子育てしながら介護をするなど、誰もが介護者となりえます。
そうした中、要介護者の増加に合わせ、介護を理由に離職する人も年々増加傾向にあります。2008年に約4万7000人だった介護離職者は、2018年にはなんと2倍の約9万8000人に増加しています。しかし、介護が理由で離職した人に調査した結果、離職により解決する問題は少なく、むしろ負担が増える結果となっています。
【介護離職の後、負担は軽減したか?の質問への回答】
出典:「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(平成24年度厚生労働省委託調査)
介護離職の主な原因のひとつは周囲に相談しにくく一人で抱え込んでしまうことですが、介護は100人いれば100通りというように、個別性が高いため書籍やインターネットの情報や他人の経験談からだけでは解決策を導き出すことが非常に困難であることも関係しています。介護には認知症や医療の問題が複雑に絡み合います。専門家に相談できる環境が、仕事と介護の両立には欠かせません。
介護初心者がまず押さえるべきことは、そもそも介護とは一体、どんなことが起こるのかを知ることです。
親の介護にかかる期間は平均で約5年。10年以上続くケースも少なくありません。先が見えない介護の中において、介護の道のりのどこに今自分がいて、心理的・物理的にどんな状態なのかを客観視することはとても重要です。また、この先どうなっていくのかおおまかな予測ができ、介護全体の時間をなんとなくでも想像できることは、「先行きがみえない不安」を減らしてくれます。
自分を取り巻く状況がわかってくると、介護は自分ひとりで頑張るものではないのだと冷静さを取り戻し、今、自分がやるべきこと、できること、できないことが見えてきます。
では、実際の介護の全体像とはどのようなものなのでしょうか?
家族を介護する人は4つの心理的ステップをふみます。介護の始まりは、これまでと違う親の様子にとまどい、「まさかうちに限って」と否定したくなります。徐々に介護する側も本人も疲労がたまり混乱し、腹を立てたり、叱ったりするのが第2ステップ。やがて、怒ったりイライラしたりするのは自分に損になると思い割り切るようになります。本人はできることが徐々に少なくなり、その頃には家族は、あるがままの親として受け入れることができるようになります。。
こうしたステップは、時間の経過とともになだらかに進んでいくというよりも、急激な変化とともに次のステップに進むことが多いです。そのため、状況が変化する度に介護する人も本人もとまどいますが、その都度家族や親せきと話をして、お互いの考えを知っておくことが大切です。そのうえで、それぞれができることの役割を決めておきます。できれば介護経験のある友人の声を聞くこともおすすめです。
在宅介護にかかる費用には、住宅改修や介護用ベッド購入などの一時的な費用と、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどの介護サービス利用にかかる毎月の介護費用があります。しかし、実際にはこのほかに医療費やおむつ代などの介護サービス以外の費用が加わることになります。
出典:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成30年度)
また施設介護の場合、月々の費用は20万円前後から高い施設だと50~60万円、入居時に数百万円~数千万円の一時金が必要な施設など、実に様々です。
介護する人の心理状態、介護にかかる時間とお金のイメージはできましたでしょうか?
実際に介護が始まると、慣れないこと、初めてのことの連続で、誰もが混乱します。ましてや育児や進学、自分や家族の仕事の状況変化などが重なればなおさらです。しかし、仕事を辞めて介護に専念したとしても、経済面・精神面・肉体面のいずれも負担は軽減されず、それどころか返って負担が増すということは上記で述べたとおりです。
介護離職の選択をするのではなく、仕事と介護が両立できる環境を整えることが何よりも大切です。必要な備えをし、周囲に相談しながら、社会資源や会社の支援制度を有効に活用することで、仕事と介護は両立できます。
介護を必要以上に恐れることはありません。いずれ訪れる介護。いざというときに慌てないために、今から備えを始めておきましょう。家族の介護リスクが潜んでいないか、年齢別に今すぐチェックできる『介護リスクチェックリスト』も併せてご活用ください。