コラム

5つの制度の活用事例や新制度の特集コラムを掲載しております。

FP相談室講師による特別寄稿
2023.04.21

働く人を支えるための介護情報  ~日本の介護をとりまく現状~

働く人を支えるための介護情報  ~日本の介護をとりまく現状~

毎月、FP相談室講師にコラムを執筆していただきます。今回は介護支援専門員 川上由里子さんがご担当です。

ぜひ、皆さまの福利厚生保険制度活用の参考にしてください。
※このコラムはFP相談室講師が介護・福利厚生保険制度の有効活用について解説をしたものであり、特定の制度や商品の募集ではありません。


1.はじめに

風薫る季節、新緑の上をほのかな花の香を添え風が吹きわたっています。
私は看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)など人の生命や暮らしに関わる専門資格をベースにこれまで多くの人のケア、そして「支える人を支える」サポートを開発し実践してまいりました。
皆様の暮らしの一部、仕事と介護の両立に役立つ大切な情報をお届けします。

2.超高齢社会の現状 ~介護は暮らしの一部、人生の一部です~ 

今から約100年前、明治、大正時代の平均寿命は男性、女性共に40歳代でした。
世界に誇れる長寿国となった現在の日本人の「平均寿命」は男性81.5歳、女性87.6歳。自立した生活が送れる「健康寿命」も世界第1位の74.1歳です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html(2022年/令和4年 厚生労働省)
医療技術の進歩、健診の普及や栄養の改善、生活環境の整備などが長寿化に大きな影響を与えました。ところが、この平均寿命と健康寿命の差が9.4歳と、誰かの手を必要とする期間が約10年あります。

また、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は28.9%(2022年/令和4年)と年々上昇。
団塊世代が後期高齢者となる2025年(令和8年)に高齢化率は30%に達し、40年後の2065年(令和47年)には38.4%にもなると推計されています。さらに、日本の総人口は減少していますが、高齢者人口の増加に伴い介護が必要となる高齢者数も増加が見込まれています。
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若い世代が高齢者を支える人口ピラミッドは、胴上げ型から騎馬戦型。そして肩車型へ移行すると予想されています。支えられる人が増加し、支える人が少ない社会の人口構成は心細さを感じますね。

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3.介護が必要となった主な原因

「介護」とは、老化や病気・障害などにより、心や体が不自由となり、日常生活の一部・全部に手助け(援助)が必要となった状態の人に、支援や手助けをすることです。
病院で行う「看護」とは異なり、介護は暮らしの一部、「自立支援の理念」のもと、援助を行います。

介護が必要となった主な原因とはなんでしょうか?
厚生労働省の調査によれば、「認知症」が18.1%と最も多く、次いで「脳血管疾患」15%、「高齢による衰弱」13.3%、「骨折、転倒」リウマチなどの「関節疾患」の順となっています。
認知症は外見からはわかりにくい疾患ですが、見守りや介護を必要とし介護者への影響、負担が高い疾患です。
脳梗塞や脳内出血などの「脳血管疾患」は、40代、50代でも発症します。高血圧や高脂血症の予防によりリスクを減らすことができます。
認知症も同様に運動、食事など日々の生活習慣が影響することが研究の結果わかり始め、様々な予防サービスや活動も生まれています。若いころからの日常生活習慣や健康管理が介護にも大きく影響していることがわかるでしょう。しかし、介護の原因のひとつである加齢はだれもが避けて通れないものです。
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4.働く人に与える影響  自分は大丈夫と思っていませんか? 

このように、人生が長くなり、少子高齢化が急速に進行する中、もはや介護はだれにとっても特別なことではない時代、社会全体で支える時代となっています。
働く人にとっても男女問わず他人ごとではありせん。
介護離職は年間約9.5万人。
ある日突然気づく親の老い、突然訪れる介護、筆者の介護相談に訪れる方からの「もっと早くから目を向けていればよかった。」「介護について全く情報を得ていなかった。」との声は後を絶ちません。
「介護できるのは働いている自分だけ?!」そんな時代がやってきています。
支える、支えられる、まずは「介護」を自分の人生の一部と受け止め、高齢期の暮らしや介護に関する情報に前向きに接することが大切です。介護をとりまく状況を正しく理解することで適切な対応につながります。

【支える世代の声】
〇両親の介護の話は職場で相談できる話題ではなく、一人で抱えて仕事を辞めるつもりでした。
 介護をすることよりも、まず必要なのは正しい情報とマネジメントなのですね
〇急激な親の変化についていけず、仕事を抱えながらきつい日々が続いていました。
 話を聞いてもらうだけで気持ちが楽になりました。(40歳男性)
〇3人姉妹の中でまさか自分が介護者になるとは全く想像していませんでした。
 いまだに納得できず介護は勿論、仕事への意欲も失っています。(40代女性)
〇介護は社会への道筋を創る支援をすること、職場や地域など周囲にもそのことを伝えることです。
 可哀そうだからと手を出しすぎない、支える側が間違ってはいけない最も大切なことだと思います。(40代女性 40代夫介護)

5.介護はライフプランのひとつ 

介護についての一番の問題は、自分自身で体験しないと何が問題で、どんな負担があるかを実感できないことでしょう。
また、情報・時間・お金、各ステージにおける相談者など、全体像が描けなければマネジメントは困難です。
実際、私たちは人生の中で多くの時間介護に関わります。「介護」という言葉には重いイメージがあることと思いますが、そこから目をそむけるのではなく、将来どんな変化がおこりどう工夫できるのか、どう備えられるのか、ライフプランをイメージしておくことが大切です。
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2000年からはじまった介護保険制度は、介護を個人ではなく社会で支える仕組み、支援の在り方も「与えられるサービス」から「与えるサービス」に変わりました。
また、職場では、「仕事と介護両立支援制度」があり、制度を上手に活用しながらキャリアと介護を両立する働き方を整えることができる時代となりました。
元気なうちから公的介護保険制度の内容や地域のサービス情報、職場の支援制度の情報を得ておくと、いざというときに役立ちます。

私たちは生まれ、そしてやがて終える時が訪れます。
筆者自身も働きながら行った家族の介護から、人間の老い、光と影のありのままを学び、それが父からもらった最大の贈り物でした。
緑芽吹く春から輝く夏を経て、実りの秋、そして静寂の冬へ。
働く皆様、皆様が支えるご家族、それぞれの人生の四季が魅力的で美しくありますようにと願ってやみません。
次回も皆様に役立つ介護情報をお伝えします。