コラム

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FP相談室講師による特別寄稿
2024.12.25

がん治療にかかる健康保険でカバーされない費用について①~病院に支払う医療費・その他の費用とは?~

がん治療にかかる健康保険でカバーされない費用について①~病院に支払う医療費・その他の費用とは?~

毎月、FP講師にコラムを執筆していただきます。今回は黒田尚子FPオフィスの代表で、特にがん治療のメディカルファイナンス(病気時の資金繰り)をご専門にされている黒田尚子さんに保険コラムを執筆していただきます。

ぜひ、皆さまの福利厚生保険制度活用の参考にしてください。
※このコラムはFP講師ががん治療費と保険の関係性について解説をしたものであり、特定の制度や商品の募集ではありません。


がんにかかるお金といえば、多くの人が真っ先に思い浮かぶのは、検査や入院、手術、抗がん剤、放射線など治療にかかる医療費でしょう。
しかし、実際にがんの治療にかかるお金は、これらだけではありません。
しかも、医療費以上に高額になるケースもあるのです。
筆者は、FPとして医療機関等で、がん患者さんやそのご家族のご相談をお受けしています。
そこで、患者さんに対しては、がんにかかるお金を次の3つに分けて整理するようアドバイスしています。

①病院に支払う医療費
②病院に支払うその他のお金
③病院以外に支払うお金

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1.がんにかかるお金①~「病院に支払う医療費」とは?

まず①は、病院に支払うお金、つまり、診察、検査、治療、薬剤にかかるいわゆる「医療費」です。
保険診療の対象となりますので、年齢や所得によって1~3割の自己負担で受けられ、高額療養費が適用されると、さらに自己負担は軽減できます。

また、勤務先で加入している健康保険組合によっては、高額療養費(法定給付)に上乗せして還付される「付加給付」という制度もあります。
ソニー健保の場合、負担上限額は1レセプトあたり2万円/月です。
どんなに高額な治療を受けても、保険診療であれば、医療費は1レセプトあたり月2万円しかかからないわけですから、
医療費そのものはそれほど心配しなくてもよいでしょう。
(参考)ソニー健康保険組合Webサイト

2.がんにかかるお金②~「病院に支払うその他のお金」とは?

続いて②の病院に支払うその他のお金は、入院中の差額ベッド代や食事代の一部などが代表格です。

厚生労働省の「令和2年患者調査」によると、悪性新生物の平均在院日数は19.6日です。
年齢が35~64歳は14.7日とやや短くなります。
1人部屋の差額ベッド代の平均は8,437円(令和5年7月1日現在) 、入院時の食事代は490円ですので、
仮に、14日間入院した場合、差額ベッド代と食事代だけで19万8,140円必要です。

これ以外にも、病衣やパジャマ、シーツ、タオルのレンタルを必須にしている病院もあります。
費用は1日300円~400円前後が多く、それほど高額ではありませんが、入院期間が長引けは、いずれも負担は増します。

これらはもちろん、健康保険の対象外の費用です。高額療養費や付加給付の適用はなく、全額自己負担となります。

ちなみに、筆者も乳がん経験者ですが、東京都内のがん専門病院に入院した際の差額ベッド代は1日3万円+消費税。
入院期間は17日間で、当時の消費税率は5%でしたから、差額ベッド代だけで約54万円も支払ったことになります。
なお、差額ベッド代は地域格差が大きく、なかでも、地価が高くて有名病院が多い東京都は群を抜いています。

それでも、静かに療養したい、あるいは他の患者さんの見舞客と一緒になりたくないなどの理由で個室を選ぶ患者さんは少なくありません。
また、コロナ禍以降、リモートワークの環境が整ったためか、病院にいる間もPCやタブレットを持ち込んで仕事をする患者さんも増えてきた印象です。

3.保険適用外となる先進医療の代表格「粒子線治療」の現状

さらに、②の病院に支払うその他のお金として挙げられるのは、先進医療や自由診療など健康保険適用外の治療にかかる医療費です。
例えば、高額な先進医療として有名な「陽子線治療」や「重粒子線治療」は、ここ数年、保険適用の範囲が拡大し、令和6年6月1日からは以下の部位も追加されています。

<重粒子線治療>
・早期肺がん(Ⅰ期からⅡA期までに限る)
・局所進行子宮頸部扁平上皮がん (長径6センチメートル以上のものに限る。)
・婦人科領域の悪性黒色腫

<陽子線治療>
・早期肺がん(Ⅰ期からⅡA期までの肺がんに限る。手術による根治的な治療法が困難であるものに限る)

一方、先進医療で受ける場合は、陽子線治療は約338万円、重粒子線治療は約327万円と高額な費用がかかります。
ただし、加入している医療保険やがん保険に先進医療特約が付帯されている方は、これらの費用はカバーされますし、別途、お見舞金等の給付金を支払う商品もあります。

ですから、逆に粒子線治療が保険適用になったことで、保険適用になる自己負担分に加えて、治療を受ける医療施設までの交通費や宿泊費(+つきそい家族分)がかかるようになり、負担が増えたという患者さんもいらっしゃいます。

なお、粒子線治療は、1日1回を週3~4回、合計1~16回程度の照射を受けます。
施設や部位によって異なりますが、治療期間は平均3週間程度。通院のほか、施設が遠方にある場合は入院する場合もあります。


今回は病院に支払う医療費・医療費以外のお金(差額ベッド代や食事代等)・粒子線治療について説明をしてきました。
次回は最近のがん治療で注目されている、がんゲノム医療を受けるために行う「がん遺伝子パネル検査」についてお話します。