コラム

5つの制度の活用事例や新制度の特集コラムを掲載しております。

FP相談室講師による特別寄稿
2024.08.21

働く人が直面する高齢期の住まいと費用について①

働く人が直面する高齢期の住まいと費用について①

毎月、FP相談室講師にコラムを執筆していただきます。今回は介護支援専門員 川上由里子さんがご担当です。

ぜひ、皆さまの福利厚生保険制度活用の参考にしてください。
※このコラムはFP相談室講師が介護・福利厚生保険制度の有効活用について解説をしたものであり、特定の制度や商品の募集ではありません。


1.はじめに

住まいは私たちの暮らしの器。いつまでも自分らしい住まい、住まい方を継続したいものです。
ところが、高齢期にはライフスタイルや心身の状態が変化し、これまでの住まいとは異なる環境を迫られる場面に遭遇します。

皆さんは自分の親の在宅介護が限界になったらどんな選択をしますか?
かかる費用や仕組みを理解していますか?

FP相談室の相談の中で最も相談件数の多い「生活の場」に関するご相談。
年々多様化する高齢者施設の情報を得て家族のニーズにそったホームを選択する過程では、思わぬ時間や費用を必要とし、働く人の経済的、肉体的、精神的負担となってしまうケースは少なくありません。

「働く人を支えるための介護情報 ~仕事と介護の両立の実際(2)~」では、住環境の整え方として、介護が必要となった時に利用できる施設をお伝えしました。
筆者はこれまで住まいを選択する多くの相談者に寄り添い、また高齢者住宅施設にも足を運んできました。
本稿では、高齢期の住まい・施設にかかる費用を中心に、働きながら施設探しに直面している、また将来に備える皆様を支援します。

2.高齢者の住まい、費用に関する実際の声 

まずは、働きながら家族の介護施設、高齢者住宅探しに直面した人からの切実な声をご紹介します。
働く人の声.jpg

3.高齢者向け施設・住宅の特徴と費用

このように親や家族の変化に伴い、施設を検討する機会、住まいの費用準備に直面します。

高齢期に利用できる施設には様々な種類があり、入居条件やサービス内容に応じ費用もそれぞれ異なります。
まず、高齢者の住宅・施設全体についてもう一度確認してみましょう。
昨年からの変更点として、介護と医療が受けられる「介護療養型医療施設」は、2024年3月にて全て廃止されました。
高齢期の住まいと費用.jpg
■高齢者が利用できる施設・住宅
以下に各施設の補足説明をします。

介護保険施設(表内①②③)


介護保険施設とは、介護保険で規定された施設、自宅での生活が困難な人で介護保険の要介護認定を受けている人のうち、病状が安定していて入院治療が必要でないことが入所条件となります。

①介護医療院 
介護医療院は長期療養のための医療と日常的な介護、生活支援などを受けられる施設です。
医療、介護が必要な高齢者の看取りの場としても今後ニーズが高まる施設です。
これまであった介護療養型医療施設は廃止され、介護医療院や老人保健施設に転換されました。

②介護老人保健施設
在宅復帰を目的とした施設、必要な医療、看護、介護、リハビリを受けながら生活する場。
入所期間はおおむね3~6か月、病院から退院後の受け皿としての役割が強く、近年は医療、看護に重点をおいたサービスが受けられるタイプの施設もあります。

③特別養護老人ホーム
常時介護が必要な人で要介護3以上の認定を受けた方が申請できます。
医療行為が必要とならなければ原則終身利用が可能です。
施設の中では最も低価格ですが、入所にあたっては数年待つことが多い施設。近年は完全個室型の高額なホームも増えています。

その他の施設・住宅(表内④⑤⑥⑧)

④グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
認知症の診断を受け、要介護認定の要支援2以上の人が入居可能。
5~9人の小規模な高齢者住宅で、食事、入浴、排せつなどの介護や生活支援を受けながら共同生活をおくるアットホームな空間です。
介護保険の地域密着型サービスですので、その地域の市区町村に住民票がある人が利用できます。

⑤ ケアハウス
一般型と介護型があり、一般型は虚弱な高齢者が低廉な費用で日常生活上の支援を受けることができます。
介護型は要介護1以上の人が入所可能。介護サービスが提供されるため要介護度が上がっても住み続けることが可能。
主に社会福祉法人が運営しており、運営数は全国に2300施設程度と少ない現状です。

⑥ 有料老人ホーム(介護付・住宅型)
高齢期の暮らしの場の選択のひとつとして定着してしつつあります。
介護付、住宅型、健康型の3類型があり、主流は介護付と住宅型。
入居条件やサービス内容、費用は各施設により様々です。
介護付有料老人ホームは各都道府県から介護保険の「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、住環境やサービス、人員配置などの基準は満たされています。
入居条件は「入居時自立、要支援、要介護」などホームごと異なり、入居者のニーズを確認しながら選択が必要です。
入居を検討する際はケアマネジャーからの情報を得られないことも多々あり、働く世代にとっては情報収集のための時間や親の資産把握のためのコミュニケーションなどが必要となります。

⑧サービス付き高齢者向け住宅
2011年「高齢者住まい法」の改正により誕生した新しい住まい、施設ではなく高齢者が暮らしやすいように配慮された住宅。
生活相談と安否確認サービスが備わっていますが、介護や家事支援などはオプション料金を払うことで受けられる住宅もあります。
入居対象者は自立、要支援、要介護など住宅により異なります。

■施設・住宅の費用の目安

住まいにかかる費用は、親、子世代双方のライフプランに大きな影響を及ぼします。ここではそれぞれの施設、住宅の費用目安をお伝えします。

①介護保険施設
介護保険施設①②③の入居一時金は不要ですが、月額費用として居住費、食費、日常生活費、介護サービス費の自己負担分などを支払います。
多床室か個室かによっても料金は異なります。おおよそ月額10万円前後と、在宅介護に比較し費用は高額となります。
所得に応じた軽減措置があり、医療費は別途必要となります。

②グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
9人以下の小規模な居住環境の為、有料老人ホームに比較すると費用はおさえられています。
入居金は0~30万円前後、月額利用料10~20万円のホームが多いでしょう。

③有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅
働く世代にとって大きな選択肢のひとつとなっている有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の費用は、ホームの立地条件や人員体制、サービス提供内容により異なります。
入居時に数百万円(0円から数億円)、月額20万円(15~35万円)といったように介護保険施設や在宅での暮らしよりも費用がかかり多くの子世代が驚かれます。
ホームごとの強みや特徴がありますので、介護サービスが手厚い、医療対応やリハビリが強い、食事が重視されている、共有部分が広く充実しているなど、費用の使われ方や違いを確認しましょう。
費用支払い方法や内訳詳細は次号でご紹介します。

4.両立を支援するショートステイ(短期入所生活介護)(短期入所療養介護)の活用

これらの施設やホームは長期入居する方法と、ショートステイとして短期間利用する方法があります。
仕事と介護を両立する人の介護負担を軽減するレスパイトケアとしても上手に活用したいサービスです。
介護保険内と保険外のショートステイがあり、介護保険ショートステイを利用の為には、担当ケアマネジャーに相談しましょう。
有料老人ホームでのショートステイは、介護保険適用外であるため利用回数に制限はなく家族の不在時や退院後など用途にあわせて申し込みができます。
保険外費用は1泊1万円前後が目安です。

5.まとめ

高齢期の住まいの種類と費用、両立のための活用法についてお伝えしました。
入居を検討する際には、家族のニーズにあった施設や住宅を選択し具体的な費用の内訳をよく確認することが大切です。
高額な有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅は、詳細なサービス内容、費用などが記されている「重要事項説明書」から確認が可能です。
ホーム運営会社の経営状態も事前に確認すべき事項です。

高齢期の住まいには思わぬ情報や費用が必要となります。
親の住まいにかかる費用は、基本的には親(要介護者)本人の家計から支払うことが望まれますが、親の資産状況によってはお金の備えがない、年金で賄えないといった場合もあり、働く子世代の家計、ライフププランに影響するケースも少なくありません。
きょうだい間での話し合いも必要です。施設入居にかかる具体的な費用については次号にてご案内します。