5つの制度の活用事例や新制度の特集コラムを掲載しております。
毎月、FP相談室講師にコラムを執筆していただきます。今回は介護支援専門員 川上由里子さんがご担当です。
ぜひ、皆さまの福利厚生保険制度活用の参考にしてください。
※このコラムはFP相談室講師が介護・福利厚生保険制度の有効活用について解説をしたものであり、特定の制度や商品の募集ではありません。
「働く人が直面する高齢期の住まいと費用について①」では高齢者向け施設・住宅全体の種類と費用についてお伝えしました。
本稿では入所に必要となる具体的な費用について、皆さんがイメージできるよう参考例をお示しします。
費用の仕組みや使われ方が理解できると、高額な費用の支払いにも納得でき、在宅と施設介護の比較検討もおちついて行うことができるでしょう。
また、ライフステージにおける介護費用準備にもお役立てください。
■介護保険施設の費用例
(働く人が直面する高齢期の住まいと費用について①表内1介護医療院・2介護老人保健施設・3介護老人福祉施設)
入所時にまとまった費用はかかりません。
月額費用として生活費(居住費・食費・日常生活費)と、要介護度別の介護サービス費1~3割を支払うことで必要な介護や生活支援を受けることができます。
居住費、食費日常生活費は自己負担ですが、申請により所得に応じ減額される「特定入所者介護サービス費の支給」※という制度があります。
ただし、こちらは低所得者を支援するために設けられている制度です。
※軽減措置を受けるためには市区町村の窓口に申請し「負担限度額認定証」の交付を受け施設に提示する。預貯金などの条件があるので事前確認を。
参考資料/厚生労働省:令和6年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直しに係る周知への協力依頼について
月額費用 :施設サービス費(介護保険要介護度による)+居住費+食費+日常生活費
次の表は、要介護4の認定を受け特別養護老人ホーム個室に入所したAさんが支払う費用の内訳です。
介護スタッフが24時間常駐する施設は、本人、家族にとって、安心安全な環境ですが、最も費用負担のかからない特別養護老人ホームでも月額5~20万円と継続して費用がかかります。
尚、前編でご説明したように、個室よりも多床室が、要介護度が高い方よりも低いほうが、費用は安くなります。
■有料老人ホームの費用例(働く人が直面する高齢期の住まいと費用について①表内6)
有料老人ホームは高齢期の暮らしの場の一つの選択肢として年々運営数は増えています(2023年時点で約16,000ホーム)。
様々な特徴を持つ有料老人ホームが誕生していますが、入居を検討する際に最も気になるのは費用のことでしょう。
費用の基本的な仕組みについて理解しましょう。
まず、利用料の支払い方式は終身で必要な家賃相応分などを前払い金として入居時に一括で支払う「前払い方式」(入居金型契約)と、家賃分を毎月支払う「月払い方式」(月額支払型契約)があります。
「選択方式」を採用しているホームも増えています。
前払い金は0円から数億円と幅がありますが、比較的高コストのホームが多く、在宅での暮らしよりも費用がかかります。
前払い方式は、定期的な所得が少ない高齢者の経済特性を考慮して生み出された方式です。
現在、大半のホームが「利用権方式」という契約形態をとっています。
これは、居住部分に住む権利と介護サービスを受ける権利が一体となっている方式で、所有権とは異なるため相続や譲渡はできません。
サービスの受け方、費用は、介護付か住宅型かにより異なります。
介護付有料老人ホームの場合は、入居ホーム内の介護スタッフが提供する介護保険サービスを心身の状況に応じて24時間受けることが可能。
月額利用料に大きな変動はありません。
また、介護保険の「特定施設入居者生活介護」という指定をうけているため、要介護度に応じた費用となります。
住宅型有料老人ホームは必要な介護サービスを契約し、入居ホームや併設事業所、地域事業所から介護サービスを受けます。
月額利用料は利用したサービスの1~3割を別途支払うため、月額費用は変動します。
入居時にまとめえ支払う前払い金には「償却期間」が定められていて、償却期間が終了する前に本人が退去さえれた場合には、未償却部分が返還されるようになっています。
償却期間や償却方法はホームによってさまざまです。多くのホームは初期償却20~30%、5~10年を償却期間として均等割りで償却しています。
月額費用の目安は15~50万円で、20万円代のホームが多い傾向ですが、介護、食事、立地条件、人員配置などによりホームごとかなりの幅があります。
ホームを選ぶ際には事前にサービス内容、料金体系について確認が必要です。
月額費用:家賃 +管理費 + 食費 +上乗せ介護費 +その他
+
介護保険サービス自己負担分+その他
次の表は介護付き有料老人ホームに入所したBさんが支払う費用の内訳です。参考例としてご覧ください。
入居金500万円、月額27万4千円の介護付有料老人ホーム入居。
生命保険文化センターによる全国実態調査(2021年)によれば、介護にかかる費用の月額は8.3万円ですが、これは在宅介護と施設費用をあわせた平均額。
在宅は4.8万円、施設は12.2万円で、最も多い回答は15万円以上です。施設介護は在宅介護よりも費用がかかることがこちらからもわかるでしょう。
参考) 生命保険文化センター2021実態調査(p174)
公的施設は入居しやすい費用ですが要介護度が高い方が対象となり、民間企業が運営する有料老人ホームは選び方が難しく費用は概ね高コストです。
また、どちらも医療機関ではない為、医療行為が発生した場合は退所し医療機関を探す必要があり、入居時には医療行為の対応範囲(吸引や点滴など)、医療機関との連携、退去条件についての確認も必要となります。施設に入所して終わりでないというのが現状です。
「将来の施設介護費用まで備える余裕はないです」「国の制度はないのですか」そんな声が各地から聴こえてきます。
ご紹介しました高齢者施設・住宅の中で、介護保険による入所サービス(施設介護)を利用し、1~3割の介護サービス費の自己負担額が上限を超えた場合は、「高額介護サービス費」の対象となります。
負担の上限は、住民税非課税世帯は44,000円~141,000円/月。
ただし、居住費、食費、日常生活費などは対象となりません。
また、このような高額な出費に備え、民間の介護保険や両立支援保険に加入するという方法もあるでしょう。
さまざまなサービスや条件があるので早い段階から情報を得て、もしもの場合に備えておくことをお勧めします。
今回は高齢者の住まいの費用の概要と費用負担の軽減方法についてお伝えしました。
次号では、元気な高齢者が住み替える住宅と高齢者の住まいの選び方のポイントをお伝えします。