がん治療にかかる健康保険適用外の費用について②~がんゲノム医療について~

5つの制度の活用事例や新制度の特集コラムを掲載しております。
毎月、FP講師にコラムを執筆していただきます。今回は黒田尚子FPオフィスの代表で、特にがん治療のメディカルファイナンス(病気時の資金繰り)をご専門にされている黒田尚子さんに保険コラムを執筆していただきます。
ぜひ、皆さまの福利厚生保険制度活用の参考にしてください。
※このコラムはFP講師ががん治療費と保険の関係性について解説をしたものであり、特定の制度や商品の募集ではありません。
「がん治療にかかる健康保険適用外の費用について①」ではがんにかかる3つのお金の概要のうち、①の病院に支払う医療費と②の病院に支払うその他のお金のうち「粒子線治療」の現状と費用についてお伝えしました。
本稿では②の病院に支払うその他のお金について引き続き解説していきます。
粒子線治療以外にも、がんゲノム医療を受けるために行う「がん遺伝子パネル検査」を自由診療で受ければ、50~100万円かかります。
がんゲノム医療とは、肺や胃、乳房などの部位に対する治療ではなく、がん細胞の遺伝子の変異を調べ、患者さん一人ひとりの特徴に合わせた治療を行う医療のことです。
そのため、まずはがん遺伝子パネル検査でがん細胞のゲノム情報を詳細に解析する必要があるわけです。
パネル検査の費用は、2019年に健康保険の適用対象となり、これまで承認されたのは5種類です(図表2参照)。
ただし、保険適用で検査が受けられるのは、現時点で手術や抗がん剤治療などの「標準治療」がない場合や、
再発・転移しているにも関わらず標準治療を終えてほかに治療法がない場合など、一部の患者さんに限られています。
国は、検査にかかる経済的負担を軽減させるため保険診療と併用できる「保険外併用療養」の対象とすることも検討しているようですが、今のところ標準治療よりも以前にパネル検査を受ける場合、検査費用はもちろん入院費など治療にかかる費用が全て保険適用外です。
さらに、保険適用で検査を受けた後、遺伝子の変異が見つかり、効果のある治療法が見つかったとしても、それが保険適用の薬剤とは限りません。
一定の効果は確認されているものの、安全性についてはまだ科学的に確認が取れていない薬剤を「未承認薬」、
また、承認された方法以外での使用方法(適応外使用)で使用する薬剤を「適応外薬」といいますが、
がん領域の医薬品について米国や欧州で承認され、日本未承認の薬剤は128、適応外は70あります(2024年3月31日時点)
これらを治療に使用する場合、1カ月当たりの薬剤費は100万円とも言われており、その費用は年々高額化しています(図表3参照)
そして治療期間も、1カ月だけなのか、効果のある限り続けるかはわかりません。
まさに、患者さんのとっては「金の切れ目が命の切れ目」という現実を目の当たりにするわけです。
ただし、これまでのデータ等から検査を受けた人のうち治療薬まで到達できる患者さんは約1割です 。
このように、先進的な治療への過度な期待は禁物です。
とはいえ、検査を受けている人は増加傾向にあり、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)によると、
保険診療開始の2019年6月1日から2024年10月31日まで8万9,469人となっています。
最近のがん保険に自由診療や患者申出療養などによる抗がん剤治療への治療給付金を支払うタイプが増えてきたのも、
このようなパネル検査やそれ以降の治療を念頭に置いているためです。
そもそも、保険は起こりうる可能性は低いけれども、生じたときに大きな経済的損失を被るリスクに備えるもの。
これらの検査や治療を受ける可能性は高くありませんが、万が一受けることになった場合の経済的リスクは、まさに保険で備えておくべきものでしょう。
今回は病院に支払うその他のお金(がんゲノム医療)を中心に説明をしてきました。
次回はがんと診断された際、医療費以外にかかるお金についてお話します。