がん治療にかかる健康保険適用外の費用について③~医療費以外にかかるお金について~

5つの制度の活用事例や新制度の特集コラムを掲載しております。
毎月、FP講師にコラムを執筆していただきます。今回は黒田尚子FPオフィスの代表で、特にがん治療のメディカルファイナンス(病気時の資金繰り)をご専門にされている黒田尚子さんに保険コラムを執筆していただきます。
ぜひ、皆さまの福利厚生保険制度活用の参考にしてください。
※このコラムはFP講師ががん治療費と保険の関係性について解説をしたものであり、特定の制度や商品の募集ではありません。
「がん治療にかかる健康保険適用外の費用について②」では病院に支払うその他のお金(がんゲノム医療)を中心に説明をしてきました。
本稿ではがんと診断された際の医療費以外にかかるお金について解説していきます。
最後の③病院以外に支払うお金も無視できない費用です(図表4)。
なかでも意外にかかるのが交通費です。
入院時に限らず、治療のための通院など、治療期間が長引けば、費用もかさみ、お見舞いや付き添い家族の交通費も含めると、結構な額になります。
前述の先進医療を受ける施設のように遠方なら宿泊費や滞在費も必要でしょう。
私は千葉県在住ですが、かかりつけ病院は東京都内でしたので、公共交通機関でも往復1,000円以上。
告知を受けた直後から入院前後くらいまでは、夫が主治医の話を一緒に聞くために、自家用車で通院していました。
複数の検査を受けるとなると、待ち時間は長時間に渡り、都内の高額な駐車場代が気になって仕方ありませんでした。
また、私のように首都圏であれば県をまたいで通院する患者さんもたくさんいらっしゃいます。
中には、主治医や希望する治療の医師が在籍する病院を転々として、新幹線で他府県の病院に通院する患者さんも珍しくありません。
一方、都内にお住まいの患者さんも、「病院は近くても、抗がん剤治療中は、点滴を受けた後、アップダウンの激しい東京の地下鉄を乗る気力・体力は残っていませんでした」と言って、往復5,000円をかけてタクシーで半年間以上、通院していた方もいます。
このほか、がん患者さん特有の費用としてQOL(生活の質)を維持するための健康食品やサプリメント・漢方薬、ジムやヨガ、ピラティスなどにかかるお金も欠かせません。
がん患者さんにとって、罹患後最も気になるのは「再発・転移」です。それに備えて、「経験者でも加入できる保険はありませんか?」という質問は多いですし、同時に再びがんにならないための生活改善にお金をかける患者さんが少なくないのです。
これらは、罹患時期や参加する患者会によって、その時々の「トレンド」があるように思います。
例えば、有機野菜を使った野菜ジュースが流行ったときは、専用のジューサーを購入して、毎月何万円もかけている患者さんもいました。
ちなみに、私の罹患した当時、患者さんがよく利用する健康食品として聞いていたのが、S(サメ軟膏)、M(メシマコブ)、A(アガリクス)、P(プロポリス)です。
ただし、健康食品やサプリメントの中には、がん治療の効果に影響を及ぼしかねないものもあり、利用する場合は、主治医に確認してからと言われていました(実際には、みなさん黙って服用されていた方が多いような気がします)。
なお、独立行政法人・国立健康・栄養研究所のサイトでは、健康食品やサプリメントの効果や副作用について調べることができます。
気になるものがあれば、検索してみてください。
さらに、がん患者さんにとって切実なのはアピアランスケアにかかる費用です。
がんの治療によって生じる外見の変化には、薬物療法や放射線治療による脱毛や皮膚の変化、手術によってできる創などがあります。
例えば、女性の罹患率が最も高い乳がんの場合、抗がん剤治療の副作用によって、脱毛(頭髪だけでなく、まつ毛や眉毛も、すべて抜けます)すれば、そのための医療用かつら(ウイッグ)や帽子などは必要なアイテムです。
ウイッグの費用は、セミオーダー、フルオーダー、人毛、人工毛、ミックス、ショート、ミディアム、ロングなどタイプによってさまざま。
メルカリで3,000円のおしゃれウイッグで代用した、国内大手メーカーで数十万円のものを2~3個買ったなど、費用は、まさにピンからキリまでです。
さらに、乳房全摘の後、乳房再建手術を受ける場合、乳房再建の費用も必要です。
乳房再建の方法は、大きく「自家組織」と「人工物(シリコンインプラント)」による2つの方法がありますが、いずれも健康保険の適用対象です。
ただし、「脂肪注入」によるものや、脂肪注入と人工物を組み合わせて行う「ハイブリッド法」で行う場合は、自由診療となり、50~100万円かかります。
患者さんの中には、痩身でアレルギー体質のため、自由診療で再建するしかなく、200万円以上かかったという方もいます。
患者さんのアピアランスの考え方や価値観によって、いくらでもお金をかけられる領域なのだと思います。
いずれにせよ、治療中は、ずっと自宅に籠りっきりになる!という方なら、それほどアピアランスケアに時間とお金をかける必要はないのかもしれません。
でも、「治療中であっても仕事をしたい!」「普段と変わらず出かけて人生を楽しみたい!」というのであれば、アピアランスケアは欠かせないものなのです。
アピアランスケアは、外見のケアを通して、患者さんの気持ちが楽になり、自分らしい生活や社会とのつながり、治療への意欲を保つために大切なケアの一つになっています。
さて、ここまで、がんにかかるお金を考えてみました。
みなさんには、これらのお金が医療費≠治療費であることを知っておいてください。
つまり、それは、保険適用外の費用の実態を理解するということです。
そして、3つのお金のうち、①病院に支払う医療費が、最低限必要な保険適用となる「かかる費用」なのに対して、②病院に支払うその他のお金と③病院以外に支払うお金は、個人個人の裁量や価値観、考え方によって「かける費用」となります。
この2つの費用は分けて考えることが大切です。
がんを経験したことがない人もある人も「がんはお金がかかる」と考えていますが、その意味はまったく違います。
前者は、なんとなく「かかる費用」が高いのではと想像し、後者は、「かける費用」に大きな負担を感じているのです。
それは、医療の進歩によって、生存率が延び、治療期間や罹患後の人生が長くなっていることと深く結びついています。
今後も、がん医療が進展するにつれ、治療費や仕事と治療の両立、ライフプラン再構築など、社会経済的な負担や問題は切実となってくるでしょう。
そのためには、がんになる前のエビデンス(科学的根拠)のある情報の収集やがん予防、経済的な備えはマストです。